2021/07/29NOBODY KNOWS コンセプト映像、2020年度振返り座談会 意見交換 テキストを公開

NOBODY KNOWSプロジェクト コンセプト映像

地域芸能と出会う旅へ、出かけてみませんか?
NOBODY KNOWSは、日本各地の「日本遺産」を舞台に、各地の知られざる歴史や暮らし・技・食などの文化を、その表現や祈りのかたちから生まれた伝統芸能の視点から再発見し、新たな地域観光のかたちを開発するプロジェクトです。

コンセプト映像では、2020年に五穀豊穣への祈りと芸能の結びつき、そのあいだに織りなす美しい風習や文化を収録。例年より規模を縮小して行われた山形県鶴岡市・出羽三山神社の「松例祭*」、そして近年継承が途絶えつつある鹿児島県薩摩川内市の「田の神講」で地神“田の神さぁ(たのかんさぁ)”に五穀豊穣の感謝を奉じる祭祀の様子もご覧いただけます。

*松例祭については、下記動画で詳しくご紹介しています。 →https://youtu.be/T2e4q2MuyNI

2020年、新型コロナウイルスの感染拡大によって、地域のお祭りやイベントは軒並み中止となりました。人が集まることさえ難しい状況が続くなか、NOBODY KNOWSは3つの地域で地元の芸能や歴史文化を取材し、新しい観光の形を模索するプロジェクトを行いました。 その中で日本各地で脈々と続く地域芸能の多くは、疫病退散や豊作祈願など生活の中で当たり前に行われてきた「祈り」からはじまっているという事実を強く意識させられた1年となりました。


2021年2月26日には、伊勢原、鶴岡、薩摩川内の3地域での映像を活用した試みについて、携わった方々それぞれの視点をふまえて進行した振り返り座談会*を開催しました。各地域からの実施報告の後、後半で行った下記のトピックについての意見交換の内容を文字ベースでご覧いただけます。

「地域で受け継がれている芸能の魅力と課題」

「歴史文化 を観光資源とするには? 」

*振り返り座談会は、各地域の報告者とオンライン会議システムzoomをつなげて実施、YouTubeでリアルタイム配信も行いました。アーカイブ映像は、YouTubeにて公開中(本テキストは映像の後半、17:05以降のものです)→https://youtu.be/aG3g2VwFQW4

報告者:花柳源九郎(日本舞踊家)、山井綱雄(能楽師)、浅野祥(津軽三味線奏者)、泉谷裕(小田急電鉄株式会社)、目黒久仁彦(大山阿夫利神社)、 上沼亜矢(西の伊勢参り 東の出羽三山参りプロジェクト)、山本紗希(琴平バス)、鮫島弘宣(薩摩川内市文化課文化財グループ)
モデレーター:大澤寅雄(ニッセイ基礎研究所芸術文化プロジェクト室)
コメンテーター:岡本真佐子(青山学院大学 地球社会共生学部 教授)、福田裕美(東京音楽大学 音楽学部 准教授)

東京会場(芸能花伝舎) 左から大澤寅雄、浅野祥、山井綱雄、花柳源九郎、泉谷裕

トピック1. 地域で受け継がれている芸能の魅力と課題

大澤:鶴岡の出羽三山で毎年12月31日に行われる松例祭について、上沼さんから 見せるためにやって いるわけではない、というお話がありましたが、だからこそ感じる魅力はありますか?

浅野:大晦日に現地にうかがって、本当に寒かった。マイナス6度ぐらい。どんなにコートを着てい ても震えるのに、みなさん薄い格好で行います。11月1日のクロストークで皆様のお話をうかがって、 雪の中でみて、命のサイクルのようなことを感じました。僕の命はどこから来たんだろうということ を考えたんです。望んで生まれてきたわけでなく、与えていただいた命をみんながじゅんぐりその中 のサイクルを生きている。それが松聖さん(100日の籠り行をする2名の山伏)たちの継承にもつな がっている。命も大事だし自然も大事だし、その関係性のようなものを漠然と吹雪の中で考えました。 きちんと本物をやり続ける、そこに松例祭の魅力を感じました。

[鶴岡] 上沼亜矢 (西の伊勢参り
東の出羽三山参りプロジェクト)

上沼:文明社会に生きている私たちは、生かされているということからかけ離れて考えてしまいがちです。ひとたび大地震などでライフラインが断たれる状況になると、人間の構造は変わっていないことに気づきます。祭りはそもそも再生のためにあるメディア。人間はいろんなことを忘れてしまうけど、ある大事な区切りにそれを再生させるというか、そうだったと思い返すのが祭りだと思います。

大澤:この事業評価をする専門家の方々にもつながっています。岡本先生、ご質問などありましたらお願いします。


岡本真佐子
(青山学院大学 地球社会共生学部 教授)

岡本:地域での担い手の確保の難しさというお話がありました。映像になったものを拝見して、これまでとは違う魅力が非常に強く発信されたと思います。あの舞をやってみたいという人も出てくると思いますが、地域を超えて入ってきていただくという考え方はありなのでしょうか?


[伊勢原] 目黒久仁彦
(大山阿夫利神社)

目黒:大山の地区には小学校が1つあり、小学4年生から練習を始めます。私が小学生の時は全校生徒が80数名、現在は50名を切るような状況で、大山の子供達だけではこの伝統を守っていけない実情があります。大山は合併で伊勢原市に入っているので、大山地区の伝統というだけでなく、もっと広い範囲でこうした芸能を守っていく視点が必要ではないかと思います。伊勢原市、広く言えば日本人として伝統芸能を守っていきたいという考えが根付いていけば、いろんな地区の伝統芸能を守っていけるんじゃないかと思っています。現状ですと、最小単位の地区の中に入りにくいという考えは根強くあると思いますが、日本舞踊にしても能楽にしても、いろんなメディアを通して世界からも見ることができます。そうした中で、一緒になって守っていくという意識を根付かせていければ、より良い伝統文化の保護につながっていくのではないかと思います。


[薩摩川内] 鮫島弘宣
(薩摩川内市文化課文化財グループ)

鮫島:昔は地域のお祭り、芸能が生活の一部だったと思いますが、今はいろんな娯楽や習い事が増え、生活習慣の変化で子供たちも親も選択できるようになった。地域性というのも人口も減っている中で希薄になって、昔は当たり前だった芸能への参加が少なくなってきているのが現状だと思います。芸能をやるということがとっつきにくいというか、距離をおいてしまうようなことがある。いざやって入ってしまえば素晴らしいとか、学べること、将来に生かせることがあると思いますが、一歩踏み込むのが難しい。そういうことをやるのが評価されるような社会になってほしい。ボランティアをやっていたら認められるように、伝統芸能や地域の芸能をやるのが素晴らしい、といった形で地域の芸能をもっと知ってもらえるようにしていきたいと思います。


トピック2. 歴史文化を観光資源とするには?

大澤:今回コロナがあったので、 NOBODY KNOWSは現地にみなさんをお連れすることができず、映像を使う形に大幅に変更がありました。小田急電鉄、小田急トラベルとして大山に関わっていらっしゃる泉谷さんは、今回の取り組みをどう感じられましたか?

泉谷:小田急電鉄では、大山や丹沢エリアのフリーパス乗車券を設けていて、小田急線、神奈川中央バス、大山のケーブルカーのいずれにも乗れるチケットの販売促進をしています。交通だけでなく地域の魅力の拡充という課題もあり、今回の撮影等にあたって現地コーディネートなどご協力しました。小田急グループとしては、地元ガイドの志村さんが大山詣りを案内するツアーを小田急トラベルと作ったり、大山の歴史や文化を伝える「大山ふたたび」というウェブページを開設していますが、なかなか響かない。大山はいま日帰りで行く登山や観光スポットとなっていますが、歴史的なところにはなかなか目がいかない。今回のNOBODY KNOWSのプロジェクトで魅力を感じたのは、自然と歴史をYouTubeを介してご覧いただくことで、関心を持った方々に来ていただけるのではないかと思いました。あと、茶寮石尊のライブで非日常感の魅力が伝わり、私どもが日頃プロモーションしているところとさらに違った切り口で、今まで知らなかった伝統芸能を発信していただけたのが非常に良かった。

大澤:コロナがあったことで、オンラインに社会全体が切り替わったということがあります。世代的に浅野さんは子供の頃からYouTubeがあるのは当たり前だと思いますが、旅というか観光はどう変わってきたと思いますか?

ドローンで撮影した大山

浅野:色々拝見していると、オンラインというかYouTubeだからこそ見れるものが非常に多い。現代の素晴らしい技術のドローンで真上から綺麗にとった映像は、見たくても見れないもの。綺麗な映像で見れるというのは、コロナになって全世界が気づいた宝物だと思いました。

大澤:確かに空中からの景色は今までに見たことがないですね。鶴岡ではオンラインバスツアーをされていますが、コトバスさんはどういう役割を担われたかお話を伺えますか?

[鶴岡オンラインバスツアー] 山本紗希
(琴平バス)

山本:金比羅山の麓にあるバス会社で、これまではリアルなバスツアーを行ってきたのですが、コロナ禍で団体旅行が難しくなってきたので、オンラインでのツアーを昨年から行っています。オンラインは開催するのがゴールではなく、観光地に行くためのきっかけづくりだと思っています。そのためにキーとなるのは、やはり人だと思います。今回のツアーでは上沼さんにナビゲーターとして入っていただいて、90分で出羽三山のことを伝えるのは本当に難しい取り組みだったんですが、うまくナビゲートいただけたと思います。

大澤:僕も実際に見てみて、予想していなかった形でとても面白かったです。準備はとても大変だったと思いますが、上沼さん、どんなご苦労がありましたか?

上沼:ポイントは2つあり、1つは目の前にいる方に対してだったら、いろんな情報を与えることができるのですが、画面を通して何かを伝える時はどうしても間が生じるとので、伝える側が情報を削ぎ落としてかなり濃いものにしないと、没入感を得にくい。90分の一つのエンターテイメントを作る形になり、非常に苦労をしました。もう1つは、テーマが神事や信仰といった物見遊山に広めるものではないものを、15~20人の方とzoomで対話しながら、どうやって「なるほど」と思ってもらえるようにお伝えするかすごく苦労しました。地域の方々が、誰も見ていなくても続けている100日の籠り行や、その成果を試される12月31日の松例祭というものは、かなり深くてデリケートだったので、安易には扱えなくて映像づくりにも配慮しました。映像にみなさんが没入していけるようにバスの車内でレクチャーをしたり、紙芝居を使って座学をやったり、あの手この手で工夫した。コトバスさんも普段よりかなり準備に時間がかかったと思います。

大澤:コトバスの通常のツアーと、今回ではどのあたりが違ったのでしょうか?

オンラインツアーの様子(zoom画面)

山本:これまでやってきたオンラインのツアーは観光地巡りに近くて、地域を数カ所回る日帰りツアーを90分に収めるようなイメージでやってきています。今回はメインが松例祭で、ツアーで訪れるのが1カ所だけというのも初めてで、雪の中ということもあって動画を非常に長く使いました。通常のツアーは没入感や対話式を大事にしているので、動画の時間をできるだけ短くするのを心がけて作っていましたが、意外とみなさんなかなかできない体験、神事など特別な動画をみるのに関心があるのがわかりました。私たちは観光事業者ですが、地元の上沼さんのような方とつないでいただけないとこういったツアーは難しいので、今回の機会をいただけたのは、非常にありがたいと思いました。

山井:出羽三山のツアーへのコメント収録させていただきましたが、ツアーということでは、個人的に旅行代理店の企画で能の描かれた史跡を巡り、その目の前で(許可をとって)私が謡って舞うということをやってきて、能楽の史跡を全国ほぼ回らせていただきました。オンラインツアーはコロナがもたらした数少ない良かった点というか、こういう映像が新しい再発見につながると感じました。実際に行ってみてもそんなに細かく説明できないし、さっきのドローンのように、動画でなければ伝えられないものがある。コメント収録前に、上沼さんからお客さんにこういう話をしますというレクチャーを受けて、すごく参考になりました。出羽三山に自分で行っていたのに、ずっとメモしながらお話を聞いていて、一般の方がお聞きになったら相当面白いツアーだと思いました。

大澤:薩摩川内は、日本遺産になったことで、日本遺産の歴史文化をつなげる取り組み、文化財を扱うことで考えるようになったことはありますか?

薩摩川内市 旧増田家住宅(国重文)での「入来神舞×日本舞踊」撮影の様子

鮫島:日本遺産に認定されてから、観光客がこれまで3倍ぐらいに増えています。これまで文化財は点で捉えられていましたが、日本遺産は点を線にしてそれを輪にして物語をつくるものです。地域の人に面白いと思ってもらう、地域の宝として誇りを持ってもらうには物語性が重要です。今回のプログラムは薩摩琵琶、入来神舞、日本舞踊と旧増田家住宅が見事につながって輪になって、旧増田家住宅のユニークベニューとしての活用法がわかった。地元での上映会ではすごく感動していただけて、自分たちが普段目にしている場所のポテンシャルの高さがわかり、地域に住む方々が改めてその価値に気づくことができて、盛り上がりを見せています。地元の方の熱意は、観光客の受け入れやおもてなしにもつながって観光客の心をつかんでいくと思います。

大澤:源九郎さんは、アーティストとして創作の欲求もあると思います。地域の芸能に簡単に触れないところもあると思いますが、どこまでつくりこんで、どこまではさわっちゃいけないのか、バランスって何でしょうか。

花柳:これは現地の方との会話のみですね。今回、入来神舞保存会の会長が非常に積極的で熱い意志のもと交流ができたので、「シルクロード」という作品が生まれたと思っています。現地の方との信頼関係でひとつの作品をつくる成功した例で、だから現地の方にも喜んでもらえたと思います。地域芸能は長年変わらず伝わってきているものという感じがあるんですけど、見てみると大陸の文化やいろんなものがミックスされている。その当時は目新しいものを地域の芸能に取り入れていたんだと思います。現代の我々が入っていくことでそうした再発見があり、地域でやってらっしゃる方も活気づけられたんだろうと思います。特に映像の切り口で地域芸能をみせるということは、あまりなかったことだと思います。入来神舞保存会の会長とお話したとき、台詞などが書かれた本を「どうぞ持って帰ってください」と渡されたので、テロップを入れる提案をしました。普段、生でみているときは何を言っているかわからないけど、動画だと台詞をのせることができるので、動画ならではの発信の魅力は非常にあると思いました

大澤:観光はよそから来た人を地域の中に受け入れて、地域の魅力をみせるわけですが、つなぐ役割は非常に重要ですね。泉谷さんはそのあたりどうされていますか?

泉谷:やはりそこの人々とお話しするというのを大事にして、いろんな関わる人達とコミュニケーションをとりながらやっています。昔は観光や旅行事業者はこういうものを作りたいのでお願いします、という形だったと思いますが、今はむしろ地域の方々とこういうもの作ろうよと一緒になって考えて、着地型ツアーとか、地元発信での魅力を伝えるものにしています。お客様の感性や多様性があるので、より深く、幕の内弁当ではなく、このおかずが勝負というツアーなり魅力を伝えることに取り組んでいます。

大澤:オンラインという形で紹介をする可能性についてうかがいましたが、継承について、お稽古などはオンラインでできることがあるのでしょうか?

山井綱雄(金春流能楽師)、花柳源九郎(日本舞踊家)

山井:能楽の世界では舞台の上演、プロの養成の他にアマチュアの方々のお稽古というのも大事な要素です。現在、集まって稽古ができないので、オンラインでせざるをえなくなり、昨年からやっています。私は対面でできない説明を映像で撮って、YouTubeの非公開でアップして、それをもとに稽古してもらって、オンラインでつないだときに謡ってください、舞ってくださいと言って画面越しにお稽古します。お弟子さんからは、「この状況で家から出られないけど、オンラインでのお稽古が生きがいです。これで私は社会とつながっているということを感じられる。ずっと引きこもって家にいると頭が変になりそうだけど、こうやって能の実演をすることで自分らしさや人間らしさを保てているんです。」と言っていただいているので、その都度悩みながらですが工夫してやっています。

大澤:目黒さん、大山でやっている神楽をオンライン越しで伝えることは可能だと思いますか?

大山小学校児童による神楽(倭舞)

目黒:色々な意見はあると思うんですけど、やはりつながりだと思うんです。つながりを守るためにはオンラインも重要だと思います。神楽舞をやる子供達が発表の場を設けるということでは、これYouTubeにあがるよと言うと、結構やる気になります。YouTuberなどスター性がある人達が多いので、俺たちがそれになれるんだ、と希望をもって練習をすることがあるんですね。また、インタビューを受けたことで初めて自分たちがやっていることを気にしたこともあった。オンラインが一つの入り口のような役割を担っていて、そこから見る人ともつながれるし、教える人ともつながれるし、間口が広がるようなイメージをもてればいいと思います。大山詣りのバーチャルツアーで知った上で大山に来る、または倭舞をみる、意味を知った上で経験するというのは、その文化を深く知る上では重要なことでありますし、子供たちにとってもプラスの面は大きいと思います。

大澤:このあたりはいろんな考え方があると思います。これが正解とか間違いという話ではなく、トライアンドエラーでいいんじゃないでしょうか。福田さん、いまの話をきいていかがだったでしょうか。

福田裕美
(東京音楽大学 音楽学部 准教授)

福田:この1年、研究者としても全然現地に行けなかった。誰もが現地にいくのが難しい、こういう状況になったときに、何を伝えるのか。それを考える1つのいいきっかけになった1年でした。オンラインで伝えるということによって、地域で伝承されている芸能のみを切り離して伝えるのではなく、バックグラウンドのお話も拝聴させていただいた。継承されている方や演じている方の気持ちとか、地域全体のことをどういう風に伝えるか、可能性が広がったというのと、そこから何を取捨選択して伝えていくべきなのか、あわせて選択肢として広がったというか、命題として突き付けられたような印象がある。これが、芸能の現地での伝承という行為と繋がっているのではないかと思う。小さい時からその土地で育って身近にあると気付かないことを、外からの目線でそうした行為を伝えることでかえって次の継承につながっていくのではないかと、みなさんのお話をうかがいながら感じました。

岡本:この前身になるプロジェクトから、複数のプロジェクトに源九郎さんが関わっていた。一つ一つの地域を大事にしながらプログラムを考えられていたと思いますが、より後になっていくほど練り込まれたプログラムになっていった印象を受けました。このプロジェクトで伝統芸能と地域芸能がクロスするというのは大事なフェーズだと思ったのですが、伝統芸能の方が複数、何回か関わっていくことによって発見されたことがあったらお伺いしたいです。

花柳:10回ぐらいはこの公演に参加させていただいて、現地の方々との交流をさせていただいた。コロナの前は終わった後にみなさんと食事をして、その土地のものをいただいて、お酒を酌み交わして、我々の芸能はいまこういう状況ですとお話して、地域の方もいま少子化でこれから伝承をどうしていこうか、といった話がたくさんできた。そういった話をすることが大事で、コミュニケーションできなければコラボレーションはできない。その回数を重ねていった中で、簡単にはふれられない、恐れ多い部分があるとも感じています。入来神舞では、十二人剣舞や巫女舞など、伝えられたことを無心に舞ってらっしゃる。我々も無心になることは、日頃大事だと言われているけど、やっぱりそこまでいかない。舞台に出るともっとよくみせたいとか、お客さんの反応があると、自然にのってくる、もちろんそれも大事なんですけど、ああいう無心の姿をみたときに、やっぱり神事や芸能の根源がそこにあったりというのを見ることを重ねてきました。薩摩川内ではシルクロードをテーマに、楽器や芸能のルーツを一緒にたどることにした。僕も舞踊ですし、地域芸能の方も舞われる。同じ肉体を使うし、刺激になる。すごいお扇子の使い方をするな、とかすごい謡い方をするなとか。お互いあるので、そういうことの大事さをいかに作品に落とし込んでいくのか、やっぱりこれまで各地で経験させていただいた中で培ってきたところです。

岡本:先ほど鮫島さんから、地域芸能や伝統芸能はなかなか敷居が高く、そこに入ってくるところに難しさがあると言われました。地域芸能というものは、神事と関係があり、生きてくことへの感謝あるいは捧げるという気持ちをどう表出していくか、我々が生きることと全く切り離されたものではない。今回関わっている地域の芸能と伝統芸能と言われる洗練された素晴らしいものが、広い意味でいかに地続きかというのがすごくよくわかったというのが、私がこのプロジェクトを見ていて思ったことです。そういう意味で言うと、日常的なものと切り離されているというよりは、まさに生きることに直結している、生きることに地続きのもの、というのがその地域の芸能あるいは伝統芸能としていかに存在しているかということが非常によくわかりました。薩摩川内のプロジェクトを拝見しても、地域の芸能だけを見てそこに関心を喚起していくのはなかなか難しいのかなと思ったのですが、そこに伝統芸能の方が入ることによって、圧倒的に違うものと言いますか、やっぱり伝統芸能の方のすごさというのがわかるんですね。地域芸能でなく伝統芸能だけがすごいという話ではなくて、やっぱり一言、一声、ひとつの音、ひとつの所作、その美しさというものが伝統芸能だけ見ているとよくわからないんですが、地域芸能という違ったものと対比された形でみせられるとそこにやはり圧倒的なものが出てくる。でも、そういう圧倒的なものと自分たちがやっている地域芸能というものが地続きのものなんだ、ていう自信と言いますか、誇りと言いますか、かっこよさにつながることが出てくるのかな、と思った。今回、こういうオンラインで通常は出会わないものがしっかり出会ったことによって、私はそこに単にYouTubeでみてもらえるから、というのではなくて、伝統芸能と地続きのものとしてある地域芸能、そこに自分たちもかかわっていける楽しさとか、面白さとかかっこよさというのをもっと多くの人に知ってもらえる、そういう素晴らしい種まきになったのではないかな、そういう感想を持っています。

大澤:非常に大事なご指摘で、この先のNOBODY KNOWSにとっても示唆に富んだご意見をいただいたと思います。一番若い世代になる浅野さんにうかがいたいのは、今日の座談会で出た話をどんな風に受け止められましたか?

大澤寅雄(ニッセイ基礎研究所)、浅野祥(津軽三味線奏者)

浅野:今日の座談会をうかがっていて、新たに僕が思った課題が1個あって、「芸能と時代の距離感」。例えば私がやっている津軽三味線と深くかかわる音楽は民謡なんですけれども、きいた話では八丈島に伝わる「八丈ショメ節」という歌がありまして、即興で歌詞を作って歌っていくんです。そういう遊びがあって、数十年前までは、子供達が卒業式で先生に向けて全員一人ずつ「八丈ショメ節」を歌っていた。でも今それがなくなったのはなぜかというと、カラオケが島に入ってきたからだそうです。でもそれは時代で、このオンラインもそうですし、コロナというのも一つの時代の流れなので、そこを肌感覚とさっきもおっしゃっていましたが、民謡という観点でいうとそこに我々パッションがないと祭にならない、オンラインだけだと難しいのかな、と今日思いました。ただそうも言っていられない現状がある。そこの時代との距離感をすごく繊細に感じていかないといけないな、と改めて自分自身が思った時間でした。

大澤:ありがとうございます。NOBODY KNOWSというプロジェクトに最初お声がけいただいたときに、よくこの名前にしたな、「誰も知らない」というこの言葉を事業の名称にして怒る人はいなかったのか、たぶん怒られたんじゃないかなと思うんですけれども、改めて私も含めて知らない。地域の人も知らなかったり、知ってると思ってたけど知らなかったということにたくさん出会ってたと思うんですよ。なので、このプロジェクトを通じて日本の国の事業では、クールジャパンという外に向けて「かっこいい日本」というのを発信しようとしているのと、もしかすると真逆に、こんなに素晴らしいものがあるのを私たち知らなかった、それを謙虚にもう1回学ぼう、教えてもらおう、お互いに地域に入ったり、外から学びに行ったり、地域の中の人が外から学んだりということが起きる。そういうプロジェクトがNOBODY KNOWSなんじゃないかという気がしています。この先もいろんな地域でNOBODY KNOWSであったり、こうした文化との出会い、地域の伝統文化、素晴らしい日本の伝統文化が出あうきっかけがたくさん生まれることを望んでおります。


2020年度の3地域で作成した映像は下記YouTubeにて配信中。

[伊勢原]大山詣りと伝統芸能ライブに触れるバーチャルツアー
[鶴岡]クロストーク「山伏と能楽師に学ぶ “こもる力”」
[薩摩川内]入来神舞と薩摩琵琶から日本のルーツを辿る伝統芸能ライブ

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